TOKYO METROPOLITAN GOVERNMENT

PROJECT
STORY

環状七号線
地下広域調節池事業

地下を走るトンネルは
未来の東京につながっている

新宿区・中野区・杉並区の道路と河川の整備を
担当する第三建設事務所の職員たち。
工事第二課の彼らに託されたのは、
全長13.1km、貯留量143万m³にも及ぶ
巨大な地下貯水トンネル
「環状七号線地下広域調節池」の建造でした。
プロジェクトに携わった6人の職員たちの会話から、
事業の背景や使命、そして壁を越えた先に見えた
新たな東京の姿について紐解いていきます。

INTERVIEW MEMBER

土 木
大友 俊 課長

建設局
第三建設事務所
工事第二課

建 築
大門 諒亮 主任

建設局
第三建設事務所 工事第二課
広域調節池・善福寺川上流
調節池整備担当

機 械
石田 磨仁 主任

建設局
第三建設事務所 工事第二課
広域調節池・善福寺川上流
調節池整備担当

電 気
柴田 直樹 主任

建設局
第三建設事務所 工事第二課
広域調節池・善福寺川上流
調節池整備担当

土 木
荒井 創汰 主事

建設局
第三建設事務所 工事第二課
広域調節池・善福寺川上流
調節池整備担当

土 木
篠田 怜子 主事

建設局
第三建設事務所 工事第二課
広域調節池工事担当

地図の下で、二つの調節池をつなぐ

大友今回のプロジェクトが始まった背景には、都市部で頻発している集中豪雨への対応がありました。私たちが管轄している新宿区、中野区、杉並区では、これまでに床上浸水や地下施設の冠水といった被害が報告されており、その対策が急務とされていました。

篠田特にここ数年、短時間で激しい雨が降るケースが増えていますね。プロジェクトが始まる以前に、神田川流域の整備水準となる降水量が1時間あたり50ミリメートルから75ミリメートルに引き上げられました。その水準変更を受けて神田川流域の整備計画が改定され、それにもとづいた工事の設計や発注が進められています。

石田環状七号線地下広域調節池は、地下深くに整備されるトンネル式の巨大な施設で、全長13.1km、貯留量は143万m³にもなります。この水量は東京ドームの天井まで水を溜めるよりもさらに大きな規模です。

荒井この広域調節池は、北側で白子川と石神井川の二つの河川の水を一時的に貯留する「白子川地下調節池」と、南側で神田川、善福寺川、妙正寺川から水を取り込む「神田川・環状七号線地下調節池」とを結びつける設計になっています。調節池容量を流域間で相互融通することにより、局地的大雨にも対応する機能を備え、大規模な容量と近年の降雨特性の両方に対応できる仕様です。私は、入都1年目からこれほど大きな事業に関わるとは思っていなかったので、最初はプレッシャーを感じました。一方で、大学時代から水害対策事業に携わりたいという想いがあったため、念願が叶って担当できることに喜びも感じています。

柴田私は前年まで民間で働いており、入都後にこのプロジェクトの存在を知りました。道路下に長大な調節池を建設するという発想に驚きました。東京都職員だからこそ携われる、未来の都市インフラを支える大事業だと感じています。

大門私も、以前は都立学校の建築に関する設計・工事を担当していて調節池事業を知らなかったので、普段の生活では見えない地下空間で進む大事業の存在に驚きました。このプロジェクトは、洪水対策を目的としていますが、将来の都市基盤の強靭化を見据えたものです。都民の皆さまの安全と安心を支えるという大きな責任を感じます。

一本のトンネルと、いくつもの職種

大友プロジェクトの成功には各専門分野の密接な連携が不可欠ですが、私たちのチームは土木、建築、機械、電気といった多様な職種で構成されており、それぞれの異なる視点から解決策を模索していると感じますね。

石田私は機械職として、調節池内のポンプ設備、換気設備及び洗浄設備の設計・施工管理などを担当していますが、大友課長が言うように、他の職種との連携が欠かせません。たとえば、機械を据え付ける土台については土木職の荒井さん、機械を稼働させる電力については電気職の柴田さんと意見交換を重ねています。また、管理棟内の設備配置について建築職の大門さんと調整を行うなど、常に対話が欠かせない作業です。

柴田たしかに、そうした連携は今回のプロジェクトにおいて必須です。私は電気設備の担当として、工事用の仮設電源の配置や配線経路について荒井さんと話し合いながら設計を進めています。また、受変電設備や管理棟内の電気室の設計を行っていますが、機械・建築設備に必要な電気を送電するため、石田さん、大門さんとも密に連携しています。そして、皆さんと雑談も交えてフランクに話し合える関係を築けていることが、スムーズな連携を可能にしていると感じます。

大門本当に、会話しやすい雰囲気だと思いますね。建築職である私の主な役割は、トンネル工事後にそれらを維持管理する管理棟の設計及び監督です。当初、事業の中心は土木で建築はあまり関わりがないと思っていましたが、プロジェクトの理解が進むほど、維持管理に必要な管理棟の重要性を感じ、建築の視点が欠かせないと実感しています。現在は、トンネル工事と並行して設計作業を進めているところで、皆さんとの意見交換を通じて実現可能かつ、将来的に維持管理がしやすい施設になるよう検討しています。

荒井土木職は、トンネル本体や立坑、取水施設の土木躯体の設計が主な業務です。取水施設ひとつを取っても、建築・機械・電気の仕様によって土木施設の形状が変わるため、他職種と密接に連携しながら進める必要があり、皆さんとの話し合いの中で最適解を見つけるように努めています。

篠田皆さん、幾度も話し合いを重ねながら、設計を進めていますよね。私は現場の工事をサポートしつつ、設計通り工事が進んでいるかを監督することが主な役割です。また、現場に直接足を運ぶことで、設計段階では見えなかった課題や改善点を共有し、必要があれば再度設計担当に確認することも私の役目です。

大友「トンネルを造る」という一見シンプルな事業の中に、これだけの要素が絡み合っています。だからこそ、職種の垣根を越えた連携がプロジェクトの成功を決める鍵になるはずです。

壁にぶつかっても、先に進むために

大友このプロジェクトは大規模なだけでなく、地下という特殊な環境での施工が中心となり数多くの技術的な壁があります。皆さんは、どのようなところに課題を感じていますか?

石田私は他職種との連携に難しさを感じました。たとえば、調節池内に設置するポンプ設備や換気設備は非常に大きなサイズのものが必要になります。それらの土台は土木施設として先に整備されているのですが、機器の維持管理や更新を見越してあらかじめスペースをもう少し大きく確保しておけばよかったと感じることもありました。

柴田私は入都したばかりということもあり、特に行政的なルールや規則の理解に苦労しましたね。しかし、皆さんが丁寧に一から教えてくださるので、徐々に積極的に質問や意見を言うことができるようになり、自分の不明点を少しずつクリアしていけたと思っています。

大門私も、これほど大規模なプロジェクトに携わった経験がなかったので、当初はかなり苦労しました。建築の分野は、計画・構造・施工・法規・環境設備など多岐にわたります。本事業についての知識や経験が少ない中で、それらの視点でスピード感を持って業務を進めていくのは骨が折れる作業でしたが、自主的に勉強したり、建築職の先輩や上司にも相談したりしながら、なんとか乗り越えることができました。

荒井土木職としては、住宅街の狭い土地の中でどのように施工を進めるかが大きな課題でした。そして、工事施工についての知識が十分でなかったため、先輩職員に確認するとともに、民間の施工業者の方々にもヒアリングを行い、クレーンの配置が可能かどうかといった課題を確認しながら進めていきました。

篠田私の場合、既に施工が進んでいる段階でプロジェクトに参加したことが大きなハードルでしたね。トンネル施工やこれまでの経緯に関する知識が不足している中で、現場の方々と話を進めなければならず、そこに難しさを感じました。しかし、皆さんに質問をしたり、現場作業を積極的に見に行くなど、「現場で時間を過ごすこと」で段々と自分の理解を深めていけたと思います。また、トンネルの掘削が周囲に及ぼす影響について、地元住民の方々に説明をするのが大変でしたね。掘削やそれに付帯する作業が地上にどのような影響を及ぼすかを説明し、理解を得ることが難しかったです。まさに現在進行形でその課題に取り組みながら、工事をどう進めるかを考え続けています。

トンネルの先に、
100年後の東京がある

大友このプロジェクトを通して、皆さんはどんな成長や発見を得られましたか?

荒井近隣住民の方への工事説明会において、騒音や振動など住環境への影響についての様々な質問に対して真摯に回答したことで、住民の方に工事内容について納得していただいた際に成長を感じました。

柴田私は、住民の方に向けた調節池の見学イベントで、子供たちが喜んでくれる姿や、住民の方々が期待を寄せてくれる意見をいただけたことが大きな励みになりました。他方、巨大かつ長期間運用する設備であるため、その維持管理も将来的には課題になることを知りました。今後は、調節池の長期的な管理方法にも目を向けて、他職種と連携して維持管理のしやすい設備設計に心がけていきたいと思います。

大門私が成長を感じるのは、職種間だけでなく、他の部署とも連携しながら設計を進めていることです。広域調節池の整備は、私たち第三建設事務所が担当していますが、トンネルが中野区から練馬区にまたがるため、練馬区を管轄している第四建設事務所との調整も発生します。私たちが設計した管理棟を、第四建設事務所の皆さんが維持管理することも考慮して、リーダーシップを発揮しながらお互いに議論を重ねることに、苦慮する場面もありつつやりがいを感じています。

石田私にとって今回のプロジェクトは、機械職としての知識を大きく深める貴重な機会になっています。普段ではなかなか携わることのない大きな規模や特殊性能を扱う中で、これまでの知識を応用しつつ、プロフェッショナルな皆さんとの連携を通じて、多くの力を身につけられたと思います。

篠田私も石田さんと同じく、自身にとって大きな学びの機会になっています。特に、着任してすぐに契約変更手続きと住民説明会が重なり、多岐にわたる知識と現場理解が求められました。大きな山場でしたが、皆さんの協力のおかげで今後も活かせる知識が得られました。これからは現場で働く方々の気持ちをさらに汲み取り、信頼関係を築きながら工事を進めていきたいです。

大友今回の事業は、世界的に見ても非常に珍しいものです。国内外のメディアからも注目を集め、東京をアピールするきっかけにもなっています。実は10年前、私はこの調節池の計画を担当していました。そして今、責任者としてその計画を実行できていることに感慨を覚えています。この事業の次なる段階として、東京湾まで地下トンネルをつなげる「地下河川」プロジェクトが進行中です。土木、建築、機械、電気の四大技術を連携させて、100年先の明るい未来の東京の礎を築いていきたいですね。

※職員の所属等は令和6年10月時点時点の情報です。